Disc2に収録されている5曲、それぞれの作曲を担当させていただきました。
今回は折角なので、音楽理論的にも突っ込んだ内容を解説していけたらと思います。
2017年のJuice=Juiceワールドツアーに向けて制作した「大英帝国」がテーマの曲です。
バグパイプの音色と、ミクソリディアン・スケールというメジャー・スケールの7番目の音がフラットしている独特な旋律を活かして作りました。
例を挙げると、「勇敢なるスコットランド」、U2「Pride (In The Name Of Love)」、Big Country「In A Big Country」等。それらの曲に共通した、雄大で格調高いメロディーを上手くポップスに落とし込むことが課題でした。
デモ段階ではUKバンドサウンドといった感じでしたが、大久保薫さんの編曲によってソリッドで軽快なダンスミュージックに生まれ変わりました。サビのバックで鳴っている「ピョコピョコ」というシンセの音が可愛く跳ねていて印象的です。
作詞は児玉雨子さん。雄大なスケール感を汲み取って言葉を選んでくれているように感じました。
「Never Never Surrender」というメッセージ性の強い言葉で、且つ声に出しても気持ちの良い語感です。
星部ショウ
この曲のメロディーを聴くたび、懐かしい風が僕の心の中を吹き抜けていきます。
というのも、バイトをしながら作曲家になる夢を追っていた頃によくやっていた「遊び」を思い出さずにはいられないからです。
その当時よくやっていた遊びというのが、「勝手にCMソング」でした。
「この商品に、こんなCMソングがついていたら面白そう!」という発想で勝手に曲を作り、それを聴いて一人はにかむという遊びです。
そんな遊びの題材となった商品に、とあるうす塩味のビスケットがありました。
素朴で美味しいうす塩味のビスケットのCMソングを勝手に作ろうと思って書いたメロディーが、2010年頃に書いた、「TOKYOグライダー」の原型になります。
うす塩味のビスケットを女性に見立てて、もう君無しでは生きていけない、というような蠱惑的な愛のストーリーを頭に浮かべて作りました。
ちなみにサビのメロディーには「誘惑のSATOMI SATOMI 恋に落ちてゆくのはいつでもSuddenly」という歌詞をつけて、CMのイメージをあれこれ妄想していたことを思い出します。
変な前置きが長くなりましたが、そんなきっかけで生まれたアーバンな曲です。
メジャー・スケールの3番目の音をフラットさせるブルーノートを多用し、大人っぽい雰囲気を醸し出しています。
作詞の唐沢美帆さんが描く都市生活者の憂鬱や奮闘を、編曲の松井寛さんの手によってスタイリッシュに仕上がったアーバンファンクとでも言うような作品になっています。
星部ショウ
今作5曲の中では1番最近作った曲で、今までにない珍しい作り方をした曲でもあります。
普段はギターやピアノなどでコードを弾きながらメロディーを作ることが多いですが、この曲は楽器を持たずに楽譜とペンのみで作りました。楽譜とペンのみで曲を作る利点は、いつも籠っている家から飛び出して開放的な気分で曲を書けるところです。
この曲の場合は、陽の傾いた川辺のベンチに座って、水面に浮かぶ鳥や散歩をしている犬を眺めながら作りました。そのせいか今まであまり作らなかったような、シンプルで優しいメロディーになっています。
編曲は浜田ピエール裕介さん。アコギ主体のサウンドで優しく儚げに始まった曲がエンディングを目掛けて静かに着実に盛り上がっていきます。小さな世界から大きな世界へ、地上から大空へ、そんな開放や飛躍を感じる編曲だと思います。
作詞は井筒日美さん、暖かく繊細な言葉が印象的です。歌詞の付いた曲を聴いて、人間は皆独りではなく他者と共鳴しあって生きている、そんなことを改めて感じました。
Juice=Juiceメンバーの透明感のある歌声も、この曲の世界観を的確に表現してくれていて嬉しく思います。
星部ショウ
様々な音楽ジャンルの中でも、AORは僕の大好きな音楽ジャンルの一つです。
洒落たテンションコードの上を這う妖しいテンションノートを聴くだけで、本能的に鳥肌が立ってしまう程です。
そんな僕ですから、曲を作る時も気をつけないと9thや11thのメロディーを多用してしまう傾向があります。
テンションを多用すると、曲が洗練されすぎて小難しくボヤっとした印象になります。
ましてアイドルソングとしては、あまり重宝されない代物になることが多いです。
この曲はそんな僕の大好きな音楽性を入れ込みつつも、あまり小難しくならないように気をつけながら作りました。
ポルタメントという2音間を滑らかに繋ぐメロディーで、セクシーさや気だるさを表現しています。
デモ段階ではAirplayやTotoのようなピアノとブラスの効いたAORサウンドでしたが、鈴木俊介さんの上質なラテンジャズテイストの編曲によってセクシーさがより際立った印象になりました。
作詞のNOBEさんの描く、妖艶さが匂い立つような女性像も眩しくて素敵です。
そして何と言っても素晴らしいのは、この曲を歌いこなすJuice=Juiceメンバーたちの歌唱力です。
歌声のセクシーなメンバーがこんなにもいるのかと、この曲を聴くと改めて驚かされます。
「こんな風に歌えるのなら、次はこんな曲も良いのではないか!」と、作家としての創作意欲もかき立てられました。
星部ショウ
この曲は「宇宙を感じさせるような曲を。」と依頼されたことがきっかけで作りました。
音楽的に宇宙っぽさを醸し出そうとする時には、sus4系コードや4度積みコードやコードの平行移動など様々な手法があると思います。
この曲ではリディアン・スケールという、メジャー・スケールの4番目の音がシャープしている旋律を活かしてAメロをまず作りました。
「流れ星 さみしさに」の「に」の音に宇宙を感じていただければ幸いです。
Bメロからサビにかけての全音転調は、一気に別の惑星へワープするようなイメージです。
サビのメロディーはシンプルに綺麗に、そして懐かしさを感じてもらえるように6度の音をサビ頭に持ってきています。
「銀色の テレパシー」の「銀」の音に昭和アイドルソングの雰囲気を感じていただければ幸いです。
この曲の間奏部分、ディミニッシュ・コードの不安定なフレーズが絶妙な緊張感を醸し出しているのですが、聴くたびに編曲の高橋諭一さんの凄みを感じます。
また作詞の児玉雨子さんの描く純な乙女心の壮大なファンタジーが、まるで映画のワンシーンのように鮮やかに浮かび上がります。
そしてこの曲で特に耳を奪われるのは、やはり宮本佳林さんの声ではないでしょうか。
この歌詞の主人公にピタッとはまる透明感のある良い声だと思います。
いつかライブで観られるであろう、8人の「銀色のテレパシー」も楽しみにしています。
星部ショウ