彼女たちのラストシングル収録曲2曲を作詞・作曲いたしました。
2019年秋。
こぶしファクトリーの解散が決まったことをディレクターからの電話で知りました。
彼女たち自身が考えた末に出した結論だということで受け入れるしかなかったのですが、自分の中できちんと消化するには少し時間がかかりました。
その電話で「こぶしファクトリーのラストを飾る曲を!」という依頼を引き受けました。
5年間の集大成となる曲にしなければと、身が引き締まる思いで制作に臨みました。
過去にも何度か発言してきたことですが、僕はこぶしファクトリーと同期だと思っています。
ここで改めて彼女たちとの5年間を振り返ってみようと思います。
2014年秋。
当時僕はサラリーマンをしながらも作曲家になりたくて、楽曲制作を続けていました。
2012年に応募したアップフロントのオーディションをきっかけに事務所との繋がりが出来て2年ほどが経過。
コンペなどのお話を頂けば、その全てにトライするという日々を送っていました。
そんなある日会社に呼ばれ、ディレクター陣からこんなことを伝えられました。
「今後は外部作家にもハロプログループの楽曲を作る機会が出来るかもしれない。何曲か提出してみて!」
正直全く予想だにしなかったお話でした。
確かに「SATOYAMA SATOUMI movement」のシャッフルユニットには外部作家の提供曲がありました。
しかしハロプログループの楽曲となると、それらは全てつんくさんが作詞作曲されるものだという認識でした。
このお話は願っても無いチャンスであると同時に、相当ハードルの高いチャレンジでもあるなと。
でもこういう時に、性根が楽観的で良かったなと思います。
「まだ自分は何者でもないし、失うモノは何もないじゃないか、とにかく前向きにチャレンジしてみよう!」
そんな風に決意を新たにしたのが5年前でした。
それから仕事の合間を縫って出来るだけ多くのデモを制作し、翌2015年には幸運なことに沢山の楽曲を採用していただきました。
例えばJuice=Juice「CHOICE & CHANCE」などの1stアルバム収録曲や、アンジュルム「七転び八起き/臥薪嘗胆」などです。
その中でも新グループのメジャーデビュー曲を担当するというのは、作家として本当に大きな経験だったと思います。
それが2015年9月2日発売のこぶしファクトリー1stシングル「ドスコイ!ケンキョにダイタン」です。
僕は昔から「作家性を感じさせない、オールジャンルに対応できる職業作家」に憧れ、そんなプロフェッショナルになりたいと思ってやってきました。
ただ僕が作家としてデビューしたての2015年は、特に歌詞に関してはまだまだ引き出し不足な面がありました。
同じ2015年デビューのこぶしファクトリーのために、どんな歌詞を書くべきか非常に悩んでいました。
会社からは「相撲」「ドスコイ」という難しいキーワードもお題として頂いていました。
悩んだ挙句たどり着いた答えが「今自分が持っているカードで勝負するしかない!」ということでした。
「彼女たちや僕は、2015年に音楽業界という同じ土俵に上がったばかりの新人。今自分が感じていることが彼女たちのそれにリンクするかもしれない。」
そんな風に半ば開き直って書いた等身大の歌詞で1発OKを頂いた時は、すごく驚いたし嬉しかったです。
それ以降の作品でも、彼女たちの心境と自分の感情をリンクさせて作った思い入れのある楽曲があります。
2016年「辛夷の花」は、彼女たちのグループ名の由来・現在の立ち位置・未来への希望を素直に綴った歌詞です。
2017年「シャララ!やれるはずさ」は、当時グループを離れてしまうメンバーや残されるメンバーに対する叱咤激励でした。
今振り返るとこぶしファクトリーに書いた歌詞には、他のグループへの歌詞にはない個人的な思いや決意みたいなものがにじみ出てしまっていると思います。
そういう意味ではすごく「作家性」のある楽曲を書かせてもらったと思います。
自分の気持ちをここまでストレートに投影させる歌詞は、おそらく今後書かないし書けないだろうと思います。
そのぐらい思い入れのあるグループだし、5年間を共に歩んだ同期に思えるのです。
そして再び、2019年秋。
電話での依頼を受け、まず最初に作り始めたのが「青春の花」でした。
ラストシングルということで、”やれること全部やってみよう”精神でいろんな要素を盛り込みました。
まず1つ目が「”シャララ!やれるはずさ”のメロディーを入れたい」ということ。
これはファンの皆さんにはお馴染みのメロディーだと思うので、また違ったニュアンスで合唱してもらいたいと思いました。
2つ目が「学校などの卒業式で歌っても違和感のない歌詞にする」ということ。
彼女たちが解散した後でも、日本のどこかで歌い継いでもらえるような普遍的な内容を意識しました。
そして3つ目が「花の散り際、最高の美しさを表現する」ということ。
春の別れをモチーフにした最高に美しい唄は、個人的にイルカさんの「なごり雪」だと思っています。
こぶしのメンバー5人を見ると、デビュー時の幼い少女から大人の女性へと変貌を遂げたなと。
本当に「今春が来て君は綺麗になった」そう感じます。
そこは同期というよりは、父親のような目線で見てしまうのですが(笑)
今回のMVを企画された北野篤さんとお話した時に1つだけ希望したのは「綺麗な5人が見たい」ということでした。
MVを見た感想は、本当にみんな綺麗になりました(涙)
「辛夷の花」以降はいろんなことがあって、いろんな感情を経験をして、綺麗な花が咲いたのだと思います。
初めての青春が終わり花は散る訳ですが、次の春にもっともっと綺麗な花を咲かせてほしいなと思っています。
「青春の花」が出来上がって数日後。
ディレクターから「もう1曲、こぶしらしい勢いのある曲チャレンジしてみませんか?」と連絡がありました。
再びの依頼に喜び勇んで作り出したのが「スタートライン」でした。
こちらは曲自体スムーズに完成しましたが、歌詞は3回書き直しています。
去りゆく彼女たちを見送るファン目線の歌詞から、ある二人の恋のやり取りを綴った歌詞、そして現在の完成形へと変遷していきました。
とにかくこぶしファクトリー史上最もファンの皆さんの歌割りが多い曲にしたかったです。
一緒に声を枯らして歌い上げ、泣きながら笑って、去りゆく背中をガンガン押すような曲になればと思いを込めました。
僕自身が高校時代に下宿生活を送っていたので、卒業して上京する時のワクワク感や、部屋を引き払った後の寂しい気持ちも歌詞になっています。
あとはキャンディーズのラストシングル「微笑がえし」のような明るいサヨナラ感も意識しました。
「青春の花」が感謝の唄なら、「スタートライン」は希望の唄でしょうか。
そんな「こぶしファクトリーらしい」音楽性を築き上げてこられた宮永治郎さんが、今回の2曲とも編曲を担当されています。
まさにこぶしファクトリーの集大成といった感じのラストシングルだと思います!
おわりに。
まずはこぶしファクトリーを応援しているファンの皆さんへ。
いつも熱苦しい楽曲を、さらに熱苦しい声援で盛り上げていただき、本当にありがとうございます(笑)
ただ最近は彼女たちに会えず、寂しい思いをされているかと思います。
彼女たちの楽曲を好きだと言ってくれるあなたは、どんな時でも人生を前向きに捉える才能があると思います。
大きな困難も彼女たちの楽曲と共に、なんとか突破していってほしいと思います!
そしてゴール目前のこぶしファクトリーの皆さんへ。
短いようでいて長く濃密な5年間本当にお疲れさまでした、よく頑張りました!
あなたたちのおかげで、僕はなんとか作家としてやっていく覚悟と自信ができました、ありがとうございます。
ここからはそれぞれの目標に向かって再スタートを切りますが、5年前のメジャーデビュー時と同じ気持ちで、謙虚に大胆にチャレンジしていってほしいです。
解散後は過去を必要以上に振り返ることなく、目の前のことに必死で向き合ってほしいです。
辛くなったり嫌になったりしそうな時は、是非あなたたちが歌ってきた楽曲を聴き直してみてください。
大人になってからの方がズシンと響いてくる歌詞もあると思うので、何かのヒントになれば嬉しいです。
そしてなにより、幸せになってください。
こんな時代です、不測の事態にも慌てずにやれることは全部やって、自分だけの幸せを掴み取ってください。
これからも陰ながら応援しています。
同期の星部ショウより